カツカレー。カツなのかカレーなのか、はっきりしない。そもそもカツもカレーも、それぞれ独立して成り立っているというのに、なぜつるむのか。カツのサクサクした衣をカレーの汁が殺し、スパイスの効いたカレーをカツの油が汚染する。カツもカレーも好物だが、一緒になると、解せない。何が言いたいのかというと、目の前にある、このカツカレーが許せないのだ。出前でカレーを頼んだというのに、配達に来たお姉ちゃんが持ってきたのは、カツカレーだった。「今、サービスでカレーにカツを入れているんです」と笑顔だ。その笑顔が、まるで悪魔にしか見えない私の気など知るよしもなく帰っていった。報告書の作成に追われて、午後9時をまわろうとしていた私の腹は言うもでもなく、空腹だ。そんな最悪な気分の時に突然入って来たのが、今回の依頼人だった。(注意:事務所に来る時は、調査員が全て出払っていたり、他のお客さんが来ていたりする事もありますので、事前にご連絡を頂き、ご予約下さい)
「あの・・・相談したいのですが、いいですか?」
30後半位のスーツを着た男性だった。
「どうぞ」
「もしかして、食事中でしたか。またで直しましょうか」
私がにらみつけていた、にっくきカツカレーに目を落とした客が言った。
「いいえ、いいえ、大丈夫です。こんなものは、食事いや人間の食べ物とはいえない。カツカレーを許せますか?」
「はぁ?」
これは、いけない。私としたことが、空腹と苛立ちと落胆で理性を失いつつある。気を取り直し、客の前に腰をおろした。
「それで、ご相談というのは?」
「実は、妻の浮気調査をして欲しいのです。先週、妻が別居したいと言いだしまして。理由が、私の性格にあるというのですが、男がいると思うのですよ」
「離婚は、お考えですか?」
「ええ、別居したいと言って、近いうちにも出ていくと言うのです。ただ、男がいるくせに、他の理由でっていうのが納得いかないんです。離婚するにあたっては、慰謝料もきちんともらおうと考えていますので」
「そうですか。でしたら、調査は奥さんが出ていかれる前の方がいいですね。裁判になった時、証拠として別居前の方が有利ですから」
「どういうことですか?」
「別居後の浮気証拠ですと、夫婦関係の破綻後ということで浮気の証拠として弱い場合もありますので。別居前ですと、一応夫婦生活というものがありますので、裁判になった時に浮気証拠として有利であることが多いのです」
結局、早急に調査を開始するということで、浮気調査Aプランで依頼を受けた。共働きで、奥さんは事務職をしており、夜遅くなることが多々あるとのことだ。そして、今週末の土日に、友達と一泊で温泉旅行に行くというのだが、怪しいので土日に調査することとなった。
[1日目] 土曜日の午前11時、依頼人と対象者(奥さん)の住むマンションの前にて、張り込みを開始した。車の可能性があるので、もう一人の調査員は車にて張り込んでいる。12時を少し過ぎた頃、携帯電話がなった。依頼人からだった。「今、妻が出ました」親切に、依頼人が電話してきたのだ。間もなくして、対象者が大きめの鞄をもって、マンションのロビーから出てきた。帽子を被った対象者は、春の装いで、いかにも休日の小旅行といったいでたちだ。心なしか、浮き足立った感じで駅へと向かう。電車で30分ほどの駅で降りた。改札を抜けると、そこで携帯電話を取り出し、どこかへ電話をかけた。時々、笑顔が見られる。電話を切って少しすると、対象者と同じくらいの年齢の男性が現れた。そして、2人して近くのファミリーレストランに入った。車を担当している調査員に現在の場所を連絡すると、私もレストラン内に入った。メニューを持ってきた、女性の店員が笑顔で言ったのだ「ただ今、カツカレーフェアをやっています!セットでお得なので、是非どうぞ」カツカレー、カツカレーって、いったい何なのだ。私は、黙って店員を睨み付けた。「申し訳ありません。決まりましたら、お呼び下さい」と言って逃げるように去っていった。カツカレーフェアなんて、客が喜ぶはずがないのだ。頼む奴などいるのか?と、その時、あろうことか、対象者と一緒の男性の前にカツカレーが運ばれてきたのだ。ろくでもない奴だ、カツカレーみたいな中途半端なものを頼むなど。
午後3時過ぎに店から出ると、レストランの駐車場に停めてあった男性の車に乗り込んだ。私も調査員が待機していた車に乗り込み、車輌での尾行を開始した。
対象者を乗せた車は、途中、休憩をとりながら有名な温泉市街地に午後6時近くに入った。市街に車を止め、ふらふらと散策を始めた。午後7時には、ここの温泉地名物の料理店の一軒に入った。外で張り込むこと2時間、やっと出てきた2人は、車に戻ると、少し走ったところにある旅館に入っていった。チェックインを確認し、午後10時に調査を終了とした。
[開始 午前11時 : 終了 午後10時 調査時間 11時間]
[2日目] 依頼人の要望で、前日はこちらに安宿をとって泊まり、朝8時から調査を開始する。2人の旅館からの出と、相手の男性の帰る先を判明させる為である。それにしても、せっかく温泉地に来たというのに、温泉に入る事も出来ず、なんとも切ない・・・。
10時前にチェックアウトを済ませ、2人して車に乗り込み、帰路へと向かった。途中、昼食などとり、午後2時に前日待ち合わせをしていた、駅に対象者を降ろし、別れた。引き続き、男の車を尾行すると40分程してワンルームマンションの駐車場に車を停めた。車から降りると、荷物をもってマンションの一室に入っていった。表札を確認し、午後3時をもって、調査を終了とした。
[開始 午前8時 : 終了 午後3時 調査時間 7時間]
これにて、2日間18時間の調査を終了とした。後日、依頼人に報告をすると、「妻の浮気の証拠がとれたのが、せめてもの救いです。基本的には、やっぱり何処か合わなかったのですよね、僕たち・・・」
依頼人が帰った後、出前の女の子がやって来た。今度こそ、普通のカレーだろうな。「お待たせしました。今、サービスでカレーにハンバーグを入れています」なにー、ハンバーグだと・・・。いいじゃないか。ハンバーグはいいよ。相性がいいのだ。ハンバーグとカレーは、お互いの良さを引き出しているのだ。今、帰っていった依頼人も次は、ハンバーグカレーのようになるといいのだが・・・。
終